プロローグ 「ジジイ!なんで明日死ぬ小娘のために、この俺様が飯持ってこなきゃなんねーんだ?」  兵士風の男の声が地下に響き渡る。だが、男の目の前にいた老人は、何も答えずにただ 頭を下げた。これ以上話しても無駄だと思ったのか、あるいは職務があるのか、男はフン と鼻を鳴らして、立ち去った。 「ほら、ご飯だよ」  殺風景な部屋----いや、殺風景なのは当たり前だ、そこは地下牢だった----に向かって、 老人が声をかける。 「ありがとう」  牢屋の中からこういう場所には似つかわしくない、凛とした意志の強い女の声が返って くる。 (こんな素直な女の子が明日には……国王様はいったい何を考えておられるのか)  老人は独りつぶやいた。小娘や女の子だと思われてるが、女は声の感じからして、20 代後半だろう。だが、兵士の男や老人が間違うのも無理はなかった。女の容姿は青い瞳に 長い透き通る様な金の髪。ここまではいいのだが、女の身長は150半ばで、顔もかなり の童顔だった。見た目では16、7歳くらいに見られるだろう。 「ごめんなさい。私のために兵士さんに怒られてしまって」 「いいんだ。わしにはこれくらいしかできない」  二、三言葉を交わして、自分の無力に脱力するように、老人が遠ざかる。  老人が持ってきてくれた食事に目をやる。当然だがお世辞にも豪華とは言えない。パン が一切れに、具の入ってないスープといった感じだ。だが、彼女には老人の気持ちが嬉し かった。だが、その嬉しさも、先程の兵士の声を思い出してしまい、感情が恐怖に変わる。 (ジジイ!なんで明日死ぬ小娘のために、この俺様が飯持ってこなきゃなんねーんだ?)  私明日死ぬんだ。と、彼女は思った。でも、ハイペリオンの皆が助けに来てくれる。嬉 しいような、怖いような複雑な気持ちだった。要するに彼女は餌であり、助けに来た連中 を一掃してしまおうという、国王の考えだと彼女は思っている。 (でも、あなた達も無事では済まないわよ。私達はそんなにやわじゃないんだから)  そう思いながら、最後になるかもしれない食事に口をつけた。冷えたスープが心を温め てくれるようだった。 第一話「姫……じゃなくてメルフィア救出」 「とうとう明日だな」 「ミリタード中央の掲示板によると公開処刑だそうですけど」 「牢からそこまで連れてくる時が最後のチャンスか……」  部屋はこざっぱりしていて、机や本棚など必要な物があるだけの部屋だった。その部屋 に2人の男に1人の女の声。それに反論するように---- 「放っとけばいい、どうせ罠だろ?」  女の声。部屋にいる全員が冷たい視線を女に投げる。 「な、なんだよ?」 「いや、エレナがドライなのは知っているが……そうもいかないだろ。」  女の疑問に答えた男は30代半ばといった所で、黒髪に黒い瞳、それに黒い服と全身真 っ黒の容姿だった。エレナと呼ばれた女のほうは中性的な顔立ちに、それに輪をかけるよ うな短い赤い髪、琥珀色の瞳で下手をすると男に間違われかねない。しかも口調もあまり 女らしくなかった。 「罠だと分かってて、それに乗るのか?アホか、アンタらは」 「相変わらずきついツッコミだな……しかたないだろ、メルを助けないとおいら達はおし まいだ」  これまた、女だが男口調のオプティが答える。長いおさげの赤い髪に、黒い瞳の女だ。 しつこいようだが、これまた見た目も男に間違われそうな容姿だ。なんといっても、腰に さげている大剣を軽々と扱う筋肉を持つ両手や、180cm以上の身長は下手な男よりも たくましい。 「フン。リーダーなら、ケイジ。お前がやればいいだろ」  鼻をならして、先程の全身真っ黒の容姿の男に向かって言い放つ。 「まあまあ、エレナさん。今は言い争ってる場合じゃないでしょう」  平均年齢が20代後半ほどの部屋で、一際若いディーがたしなめる。年齢は16歳ほど で顔は美形と言っていい。髪も女性が羨む様な綺麗な金髪で、青い瞳の少年だ。 「う、分かったよ」  何故かディーには弱いエレナが自分の非を素直に認める。 (このショタコンめ)  オプティは思ったが口には出さなかった。だが、何故か隣のエレナに殴られる。 「いっ!何すんだよ」 「うるさい、なんかむかついたんだよ」  これが噂に聞くマントラだろうか。(爆) 「そんな事よりもはやくプリンセスを助けに行こうぜ?」 「……プリンセス?」  全員一致で疑問符を浮かべる。 「メルさんだよ、姫を助けるのは王子の役目だろ?」  30代前後のシールズが全員の疑問に答える。美形で赤い髪に赤い瞳、身長もかなりの 長身で街を歩いていれば、女性が10人中8人ほどは振り向きそうな容姿だが、どこか軽 薄そうな印象を全身から漂わせている。 「すまん、皆。ホントのアホはこいつ一人だった。」  エレナのツッコミはきつかった。 「こいつ見た目は軽薄そうだけど、傷つきやすいからやめろって」  ケイジがフォローに聞こえて、そうでもない言葉をエレナに言う。ちなみにシールズは 部屋の隅で落ち込んでいる。(爆)  「って、んな事言ってる場合じゃないだろ。どうにかしないと」 「だな。作戦立てよう」  ケイジが話を戻す。そして、タペリ城の内部図を広げた。かなり古い物で図の端はボロ ボロ。右下にある作成された年も10年前の物になっている。 「そうだな……ここはエレナに一役かってもらうか」 「ハア?なんであたしが……やるならアンタらでやりなよ」  不満というよりも明らかに迷惑そうな顔で言う。 「そう言うなって。元盗賊のお前にしかできねーんだから。隠密行動は得意だろ?」 「ま、まあそうだけど。なんで、あたしが……」  ぶつぶつ言いながらも満更でもない顔のエレナだった。 「で、具体的な作戦だが……」 --------------------------------------------------------------------------------  ここはタペリ王国。ここ数年この国は内部戦争で荒れていた。始まりは、タペリ王国王 妃が亡くなった8年前。それまで善政を治めていたタペリ国王が、税を急激に上げ、さら には気に入らない者は即死刑という悪政に変わったためだ。  そのためレジスタンスという者達が存在する。それがハイペリオンだった。人数は70 人ほどだ。少ない様に見えるが、8年前までタペリ国王に領土的野心がなかったため、国 の兵士の数もかなり少ない。近年少しづつ増えているようだが、それでもまだ300人ほ どだろう。正規の騎士にいたってはハイペリオンメンバーよりも少ない。反乱の力として は十分だった。 「さて、俺らは北側から入るわけだが……」  ケイジが振り向きながら集まってる全員に言う。 「城壁だな」 「城壁ですね」 「城壁だよな」  タペリ城の城壁はかなり高い、少なくとも6、7mはありそうだ。 「ここ登るのか?登ってるうちに見つかるだろ」  ケイジのすぐ後ろにいたオプティが疑問を口にする。 「いや、俺達は囮なんだから、もっと派手に行こう。というわけでディー君……」  オプティの後ろにいるディーに話しかける。 「はい?」 「ここにファイアショック(爆)」  事も無げに言うケイジ。 「ぇぇ?!壊しちゃっていいんですか?」  育ちがいいのか、なんなのか、あまりレジスタンスらしくないことをディーが言った。 「いいのいいの。って、あまりよくはないか……税金また上がるかもな(汗)」  はっきり言って、国民にとってハイペリオンの評価はよくない。国王に不満を持つ者が 多いのは事実だ。しかし、ハイペリオンによって与えられた被害は国民の税によってまか なわれる。国民の評価が悪いのもうなずける話だった。 「まあ、ここ壊さないと入れないし、仕方ないだろ」 「そ、そうですね。」  あまり気乗りしない様な顔のディーが城壁に近づく。 「では、行きますよ。準備はいいですか?」 「いつでも」 「OKだ」 「どんとこい」  全員の同意を得られたので、ディーが城壁に両手を触れる。 「ファイアショック!!」  ディーが言葉を発した瞬間、火柱があがる。かなりの高温なのか、一瞬にして灰になる 城壁。一部分だけだったが、人2、3人分が通るには十分だった。ガラガラと落ちてきた 破片をひょいっと避けるハイペリオンメンバー。呪文に集中していたディーの上に落ちて きた破片は、オプティが粉々にする。 「お、出てきたぜ」  ファイアショックの音を聞いて、兵士が城の北にある小さな扉からぞろぞろと出てくる。 と言っても、囮だと見破られたのかあまり数は多くない。 「おい、見破られたんじゃないのか?」 「……派手にやりすぎたかもな」  何故かニヤニヤしながら、オプティの疑問に答えるケイジ。 「でも、まあまだ東側の奴らがいんだろ。俺達は俺達の仕事しようぜ」 -------------------------------------------------------------------------------- 「あたし達は東側から入るんだけど……」  エレナが後ろを振り向きながら全員に言う。 「見張りだな」 「見張りですね」 「見張りだよな」  どっかで聞いたような台詞だが、気のせいだ。(爆)それはさておき、東側は城門なの で当然見張りという者が存在する。2人の兵士で、一人はあまりやる気のなさそうな若者。 もう一人は油断なくあたりを見渡している壮年の男だ。 「まあ、当然だよね……っても、二人だから投げナイフでいけるか」  事も無げに言うエレナ。 「おい、同時にやらないと、どっちかが助け呼ぶんじゃないのか?」  シールズが疑問を口にする。 「アンタ、あたしをなめてるでしょ。まあ、見てなって」  言いながら、腰のベルトにつけている短剣二本に手を伸ばす。 「で、準備はいい?」  短剣二本を両手に一本ずつ持ちながらエレナが言う。 「いつでも」 「OKだ」 「どんとこい」  なんというか……類は友を呼ぶってホントですね。(何) 「シッ!」  小さく気合の息を吐きながら、右の短剣を投げる。投げた短剣は狙いたがわず兵士の眉 間に突き刺さる。それに驚いた若者は助けを呼ぼうと---- 「お、おい……」  その後は声にならなかった。エレナの左の短剣が若者の眉間に突き刺さったからだ。 「お、恐ろしい女……」 「まあ、同時にとはいかないけどこんなもんだね」  シールズの言葉は聞こえなかったかの様に、エレナは自慢げに言った。 「じゃあ、気づかれないうちに入ろうか」  と、エレナが言った瞬間----突然ドーンという音。おそらくディーのファイアショック だろう。エレナが途端に小難しい顔をする。 「ハア……ケイジの奴またディークンに無茶させやがって」 「ていうかよ、囮つってもやりすぎなんじゃないのか?」  シールズが疑問を投げる。 「だよね、こっちが本命だと思われる可能性大だね。作戦通り救出部隊はあたし一人で、 後は全員ケイジの部隊と敵を挟撃。その後は合流して囮役やってよ」  と言った瞬間、突然シールズが不満そうな顔をした。 「な、なによ?」 「……俺も助けるほうがいい(ボソ)」 「邪魔、役に立たない、帰れ(きっぱり)」  落ち込むシールズ。 「わ、分かったよ。アンタだけね。後は全員囮役で」 「よっしゃ!(復活)」 「現金な奴……まあ、いいか。ボヤボヤしてるとまずいね。入ろう。」 --------------------------------------------------------------------------------  ガシャガシャと鎧の音をがなり立てながら騎士が一人、それに従うように軽装備の兵士 が二人歩いている。目的地はタペリ城北西にある地下牢だった。看守の老人と一言、二言 話して中に入る。鎧の音が地下に響き渡る。 「出ろ」  牢屋の鍵を開けながら、鉄格子の中に騎士が話しかける。 「はい」  どちらも短い言葉だが、それゆえ重苦しいと看守の老人は思った。 -------------------------------------------------------------------------------- 「おい、エレナ。そっちは地下牢じゃないだろ」  エレナが無視して右手の部屋に入ってく。だが、十数秒してすぐ出てくる。 「ああ、間違えた」 「おいおい、しっかりしろよ。だいたい牢は地下なんだから間違えようがないだろ」  シールズが不信そうに言う。 「分かってるよ、それよりもアンタ……」 「へ?」 「これ持ちな」  と、シールズに投げたのは大剣だった。しかもかなりの重量だ。思わず避けるシールズ。 「あ、あぶねえだろ!」  拾いながら抗議の声を上げる。あたりをキョロキョロと見渡し、気づいた者がいないか 確認してから、拾った大剣をまじまじと観察する。ヒューと口笛を鳴らし…… 「へえ、なかなかいい剣だな。中は武器庫だったのか?」 「ただで帰るのはもったいないからさ、間違いついでに一番いいのを持ってきた」 「だけど、メルさんも同じような剣だった気がするけど」 「こっちは騎士用のレプリカだろ。と、言っても質はいいけどね」  エレナが冷静に鑑定する。エレナは元盗賊だが、何故か目利きも確かだと、シールズは 知っていた。たぶん、盗んだ物を売るときに身に着けたものだろうとシールズは思ってい る。 「どうでもいいけど……この大剣重いんだけど」  シールズが情けない悲鳴を上げる。 「情けないねえ。いつも同じくらいの重さの剣二本持ってるだろ?」 「あわせて三本だから重いんだっつの」  たしかに腰に二本つけて、片手に一本持っている。 「一本だと折れるけど、三本だと折れないって奴か」 「いや、意味不明だし(汗)」  エレナが無視してスタスタと奥にある地下牢へと歩いていく。さすがに途中何人か見張 りの兵士はいたが、この数だとエレナ達の敵ではない。6人目がエレナの投げナイフの犠 牲になった時に階段があった。階段を降りた後に、扉があったが開いていた。中には看守 用の部屋がある。どうやら、もう連れていく所らしい。 「中にいるみたいだね」 「だな」  と、シールズが同意する。最初は看守をなんとかしないといけないわけだが、エレナは かまわず中に入った。 「お、おい」  シールズが止めようとしたが遅かった。既に入ってしまっている。 「やあ、看守のじいさん久しぶりだね。」  部屋に入ったエレナは、小声で看守に話しかける。 「お、お前は」 「へ?」  横から看守の驚いた声と、後ろからシールズの間の抜けた声が聞こえる。 「ここには二度と来ないつもりだったけど来ちまった」 「10年振りくらいか?久しぶりだな……そうか、ハイペリオンに入ったのか」 「お前、いったい……」  エレナは後ろに振り返り、シールズの疑問に答える。 「ああ、えーと、12歳の時だったかな。盗みでドジって牢屋に入ったことがあるんだよ。 そん時にこのじいさんには随分世話になったんだ」 「じゅっ?!お、お前なんでそんな……」  うまく言葉にならないようだ。当然だ。普通12歳といえば、魔法学校にしろ、剣術学 校にしろ、学校に行ってる時期だ。シールズも御多分に漏れず、12歳の時は剣術学校に 行っていた。 「そうしなきゃ食えなかったからな。まあ、それはどうでもいい。じいさん」 「なんだ?」 「通してくれるかな?手荒な真似はしたくない……アンタなら、国王のやってる事が間違 っているって、分かるはずだ」 「あ、ああ、あの娘助けてやってくれ」  すがる様な老人の声に、にっこりと微笑み頷いた。そして、壁に指を指し…… 「あの壁のあたりにうずくまってれば、やられたように見えるだろ。」 -------------------------------------------------------------------------------- 「さて、うまく合流はできたけど、どうする?」  オプティがケイジに疑問を投げる。周りには兵士の死体が山ほどある。それにくらべ、 ハイペリオンは無傷とまではいかないが、死んだ者はいないようだ。挟撃が成功した証だ。 それだけではなく、北側から攻めた囮がこれでもかという程派手だったため、囮なのか否 かが分からなくなり、戦力が分散されたのだ。結果的には作戦は成功したと言える。 「とりあえずは囮だとばれないようにしないとな」  言いながらも、兵士一人を斬り捨てる。と、横からもう一人の兵士が斬りかかってきた。 突然の攻撃を大型の赤い盾----レッドシールドだ----で受け止め、はじき返す。バランス を崩した所にすかさず兵士の首に突き刺した。兵士が絶命して倒れた。 「ふう、きりがねえな。そろそろ気づいてくれねーかな」  ケイジがぼそぼそとつぶやいた。横にいたオプティが不信そうに---- 「なんか言ったか?」 「いや、なんでもない。もう少し頑張ろうぜ」 「だな」 -------------------------------------------------------------------------------- 「妙だな……」  タペリ王国騎士団の鎧を着た男がつぶやく。髭をあごにたくわえ、かなりの威厳を放っ ている。 「はい?」  横にいた従者が疑問符を浮かべる。鎧を着た男はおそらく将軍なのだ。 「奴らの目的はメルフィアを助けだす事のはず。何故進まずに同じ所で戦っているのだ。 しかも、奴ら城に入ろうとさえしないではないか」  将軍の言った通りに城の中ではなく、城壁の中ではあるが外で戦っている。 「それは……我が兵士達の力のおかげなのでは?」 「本当にそう思うか?奴らは決して弱くはない。まして、こちらの兵士は最近兵士訓練を 受けた者達ばかりだ。奴らの相手になるとは思えん」  将軍の男は従者とは違って、冷静に戦力を分析する。 「ハア……ではどうして進まないのでしょう?」  従者が当然の疑問を投げる。 「だから、妙だと言っている。最初は囮と見せて、挟撃して兵士の数を減らし、合流して から助け出す策だと……」  途中で言葉を遮り---- 「おい、レイル。ここの指揮をしろ。」  近くにいた赤い髪の騎士----兜はつけてない----に向かって乱暴に言い放つ。 「はっ!将軍はどうされるので?」 「俺達は地下に向かう。ここは必要最小限の兵だけでいい」  後には数十人の兵士と、片手で数えられるほどの騎士と、ハイペリオンメンバーだけが 残った。 --------------------------------------------------------------------------------  地下で中の様子を窺うエレナとシールズがぼそぼそと何やら話している。 「3人か……厳しいね」  言葉通り厳しい顔をしたエレナが言う。 「どうする?」  こちらも険しい顔のシールズ。 「2人ならさっきと一緒でなんとかなるけどね」  同意するように頷くシールズが、服のポケットから角笛を取り出す。 「盲目の歌使うか?」  シールズは戦士でありながらも、呪歌で敵の能力を下げるバードの能力も持っている。 「アンタが見えなくなっても、あたしは見えるからね。他の騎士が集まってきたら逃げ場 がないし」  呪歌の最大の弱点は歌わなければならないと言うことで、隠密行動には向かないのだ。 しかも、今は戦力分散されてるため、何処に敵がいるのか分からない状態だ。 「なら、風の指輪を使ってランプを消し……」 「それも、あたしが夜目が利くと言っても、慣れるまで時間がかかるから……いや、まて よ」 「?」  途中で言葉を遮ったエレナに向かって、シールズが疑問符を浮かべる。 「あたしが兵士二人投げナイフで倒したあと、風の指輪使ってランプを消すから……」 「敵の位置覚えておいて、一気に距離をつめてばっさりか?」  エレナの言葉を途中で遮り、シールズが彼女の考えを代弁した。 「だね。できる?」 「まあ、できないとは言わないけどよ」  シールズが不安そうな顔をする。 「失敗したらメルフィア置いて逃げるからね」 「……死ぬ気で頑張るよ」  覚悟を決めたのか、エレナに風の指輪を渡す。 「じゃあ、準備はいい」 「ああ」  まだ不安そうなシールズだが、先程エレナから預かった大剣を音を立てないように壁に 立てかけ、両手で自分の剣を二本持つ。シールズは双剣の使い手なのだ。一気にダッシュ かける事ができるように気合をためてから、エレナに向かって合図する。 「行くよ……」  と、言ったエレナが短剣を右、左の順番に投げる。狙いたがわずエレナの投げた短剣が、 一人の兵士の眉間と、一人の兵士の首に突き刺さる。そしてシールズが一気に距離をつめ る。 「何者だ?!」  地下牢なのでこれくらいの声では外には聞こえないだろう。だが、角笛を使われると厄 介なのでこういう作戦をとったのだろう。と、その作戦を立てたエレナが風の指輪を人差 し指に付け、手をかざす。本来は強風で弓矢を落とすためのアクセサリーだが、狙い通り に強風が地下牢の中に流れ込み、ランプの火が消える。 「なっ」  驚いた顔をする騎士が、慌ててマントの中に手を入れる----角笛を取ろうとしたのだろ う----だが…… 「遅い!」  まずは右の剣、続いて左の剣が、騎士の体を一閃する。騎士が絶命し、どうっと倒れた。 「シールズさん?」  と、女の声----メルフィアだろう----が牢の中からする。先程の声でシールズだと分か ったのだろう。エレナの存在には気づいていない。 「助けに来たよ、メルさん。君の為ならば俺は危険も顧み……」 「いや、聞いてないから」  と、エレナがシールズの言葉を遮り、ツッコミを入れる。 「その声はエレナさん?」 「ああ、はやく出な。気づかれるとまずい。それと、これを」 「私の服……」 「おまえ……いつの間に。……さっきの武器庫か、てことはこれはメルさんの剣じゃねえ か」  自分の剣を腰の鞘に戻し、メルフィアの剣を手に取る。一度牢に入れられたことのある エレナだ。囚人の装備が何処にあるか、知っていてもおかしくはない。 「ぷぷっ」 「なんだよ?」  不機嫌そうな顔でシールズに疑問を投げる。 「いや、意外と優しい……いてえっ!」  エレナが無言で殴る。と、ここで当然の疑問がメルフィアから出た。 「というか、シールズさんは私をこの服のまま歩かせる気だったの?」  メルフィアが自分の着てる囚人服を見ながら抗議する。……微妙な沈黙の後、シールズ が弁解する。 「あ、いや、その……そこまで余裕がなかったというか……むしろ、寒いだろ?俺の服を 着な、とか言ってみたかった訳じゃなくて……あの、その」 「墓穴掘ってるな」 「掘ってるね」  メルフィアまでも意地悪そうな顔で言う。この顔からして、さっきのは冗談だったのだ ろう。 「う……ていうか、こんな事してる場合じゃないんだって!」 「だね」 「うん、二人とも……」  と、メルフィアが微笑みながら二人に向かって言う。 「「?」」  二人、共に疑問符を浮かべる。 「助けてくれてありがとう」  微笑みながら言うメルフィアに、二人はただ照れた顔を返すだけだった。 -------------------------------------------------------------------------------- 「どうやら、気づかれたみたいだな……」  ケイジがオプティに向かって同意を求める。 「だな。って、お前のんびり言ってる場合かよ!あっちはメル合わせても3人いかいない んだぞ」 「よーし、皆撤退するぞー。って、3人?!なんで3人になってんだよ!」  のんびりした声で撤退の命令をした後、ケイジが驚くような顔をする。 「な、なんだよ。城門から来た奴らの話だと、シル君も救出に行ったらしい」 「あ、あのアホ……(汗)」  がっくりとうなだれるケイジだが、すぐに気を取り直して…… 「クソ、今さら後の祭りだな。撤退だ、チクショー!」 「おい、メル達はどうすんだよ!」  怒った様に撤退の命令を出すケイジに、当然の疑問をオプティが投げる。 「まだ、気づかないのか……あいつらはお・と・り。誰も救出部隊が囮だなんて思わない だろ?」 「ハア?なんだそりゃ、あべこべじゃんか」 「まあ、ともかくあいつらは大丈夫だって。それよりもこっちの被害が出ないうちに逃げ ねーとな」 「信じていいんだな?」  人一倍仲間意識の強いオプティがケイジに向かって言う。 「大丈夫だって。よし、ディー君がファイアーボール使ったら、一気に逃げろよ、皆」  ケイジがディー、次に後ろの全員へと視線を移しながら命令する。 「じゃあ皆さん行きますよ?」  ケイジに言われたディーが魔法使うための精神集中に入る。 「いつでも」 「OKだ」 「どんとこい」  全員の声が返ってきたので、頷き、両手を前にかざす。 「ファイアーボール!!」  あたりに火の固まりが撒き散らされた。一瞬敵がひるむと同時に視界が遮られる。 「よし、撤退!」 「「おう!!」」 -------------------------------------------------------------------------------- 「そうだ、メルフィア」  と、着替えてる最中のメルフィアに向かって、エレナがアクセサリーを二つ差し出す。 ちなみにシールズは外で見張り役だ。地下牢の中で点けなおしたランプの明かりがゆらゆ らと揺れている。 「これ……移動の指輪と移動のネックレスだね」 「え?これが?ケイジにメルフィアに渡せって言われてたんだけど……そうか、これが移 動のアクセサリーか。あたしは初めてみたよ」 「うん、でも……3人で使うとたぶんアクセサリーの方が耐えられないんじゃないかな?」  メルフィアの言葉に何やら思いついた様にエレナが顔を上げる。 「……やられた。あたしは囮かよ。シールズは予定外だし……」  ぶつぶつと言うエレナを不信そうな顔で見つめる、メルフィアが口を開く。 「どうかしたの?」 「いや、なんでもない。っていうか、いい事思いついた。フフフ……」  不気味な笑みを浮かべるエレナに、ちょっと引きながらメルフィアの着替えが終わった。 「さて、行こうか。あたしの考えだともう奴らは逃げてるよ」 「?う、うん」  扉を開けて、外のシールズと合流する。 「よし、行くぞ」  と、スタスタと先を行くシールズに向かって、エレナが呼び止める。 「ちょっと待って。たぶんそっちからぞろぞろ来るよ?」 「じゃあ、どうすんだよ?」  シールズが不満そうな顔をする。 「これだよ」  と、エレナが移動の指輪と移動のネックレスをポケットから取り出す。 「え、でも、3人だと壊れちゃうんじゃ……」  メルフィアが遠慮がちに言うが、そんな事は気にも留めてないように…… 「いいんだよ……あたしを騙すとこうなるって知ってもらわなくちゃね……フフフ」  と、そんなやり取りをしてる間に、騎士数人と兵士数十人がこちらに向かって来た。東 側と南側に通路があるのだが、東側から敵は来ている。 「こっちからも来てるぞ?(汗)」  と、南側を向いていたシールズが、二人に向かって言う。どちらかと言うと、南側の方 が人数は少ないが……3人では突破は無理だろう。 「フフ……いよいよ壊……いや、使わなくちゃいけないみたいだねえ」 「嬉しそうだな、お前」  シールズが疲れた様な口調で言う。と、エレナの琥珀色の瞳が一人の騎士に止まった時、 エレナの顔が突然怒ってる様な、泣いている様な妙な表情に変わった。髭をあごにたくわ え、かなり体格もよく、威厳がある。先程の将軍だった。 「あいつは……」 「?あの人がどうかしたの?」  突然表情が変わったエレナを不思議そうに見ながら、メルフィアが訊ねる。 「おい、使うならはやく使え!挟撃されちまうぞ!」  シールズが切羽詰った顔でエレナを急かす。だが、エレナはそんな言葉も耳に入ってな い様子だった。ただ、南側の騎士団の一点を見つめている。 「あいつは……」  もう一度先程の言葉を繰り返す。そして、手をぎゅっと握り締め、唇を噛み締める。と、 いきなり腰から短剣を引き抜くと、騎士に投げつける。狙いは眉間だ。だが、あっさりと 眉間を狙われた騎士は、剣で叩き落す。 「無礼な奴だな、見張りも今の様に殺したのか?まるで卑しい盗賊だな」 「だまれ!!」  突然の剣幕に気おされた様なシールズが口を開く。 「なんだってんだよ?はやく使えって!」 「うるさい!!」 「お前が使わないなら、俺が使う!メルさん、こいつ押さえて」 「で、でも」  メルフィアが戸惑った様に、エレナ、シールズと目線を移す。 「使わないと死んじまうだろうが!はやく!」 「う、うん」  と、がっしりとエレナの体を押さえる。エレナは抵抗するが、細身とはいえ、シールズ が重いといった剣の持ち主だ。かなりの腕力で抑えられる。ジタバタと抵抗するエレナか ら指輪とネックレスをシールズが奪い、急いで装着する。 「離せ!あいつだけは!」 「よし、メルさん俺の手掴んで」 「うん」  場所を念じ、指輪を装備してる右手の方を上に掲げる。と、フッと3人の姿がかき消え る。瞬間指輪とネックレスが砕ける音。後には砕けた指輪とネックレスが残った。 「……やられたな、全員が囮とはな」 エピローグ  タペリ首都ミリタード中央掲示板に、突如三人の姿が現れる。城の中にいて、気付かな かったが、天候は曇りでどんよりとしている。その天候の様な表情の女と、ほっとした様 な表情の男女が一人づつだ。 「よし、二人ともアジト行こう。一雨来そうだ」  シールズがメルフィアとエレナに向かって言う。 「うん」 「……ああ」  力なく返事したエレナと、微笑みながら返事したメルフィアは対照的だった。と、その 時雨がぽつっぽつっと降ってきた。 「げ、降ってきやがった。」  と、シールズが上を見て、恨めしそうに言ってから、走り出す。メルフィアもそれにな らって走り出す。だがエレナだけは歩いたままだった。と、シールズが走って戻ってきて 言った。 「なんだか知んねーけど、このままじゃ風邪引くだろうが。走るぞ」  と、エレナの手を引いて走り出した。3人一緒にアジトについた頃には、結局三人とも ずぶ濡れだった。と、ケイジが三人を出迎えた。……というよりも怒っている。……とい うよりもずんずんとシールズの方に近づいている。 「このアホ!!」  ドカっとシールズを殴りつける。当然不服そうな顔をするシールズだが、それを無視し て罵声を浴びせる。 「この軟派野郎、女の事しか考えてねーのか!このやろー」 「いきなり殴っておいて、それか!」  間にいるメルフィアが困った様にケイジ、シールズ、ケイジ、シールズの順番に視線を 移す。と、殴り合いになってきたのでメルフィアが口を開く。 「ああ、もう!二人ともやめなさい!」 「う……メルさんがそう言うなら……」 「いや、俺はまだ殴りたりねーぞ。なあ、お前さ、移動の指輪とネックレスどうしたよ?」 「……壊れた(汗)」 「あれは俺の持ってる中で最高級のアクセサリーだったんだぞ!殺す、絶対殺す!」  今のケイジの剣幕を見ると本当に殺しかねない。と、遂に腰の剣に手が伸びる。 「決闘だ、ゴルア!」 「プッ、アハハハハ」  突然笑い出したエレナを見て、ケイジの剣を掴んだ手が止まる。 「プッ、クックック。アンタが騙したのがいけないんじゃないのさ。あたしに言っておけ ば、シールズ連れて行かなかったのにさ。クックック。駄目だ。笑いが止まらねー。ププ」 「う、あれは囮だって言われて、お前が素直に行くと思わなかったからだな……その、敵 をだますにはまず味方からというか……」  と、その言葉を聞いて、また大爆笑のエレナ。 「要するに、あたしがいざとなったら、移動のアクセサリーで一人逃げると思ってたわけ だ?知ってたら、いつでも逃げられるから、必死に救助活動なんかしないと?プッ、自業 自得じゃんか。これに懲りたら、もうあたしを騙すんじゃないよ?クックック」 「というか、そんな奴にまかせるケイジはどうだよ?……いてえ!」  シールズが言うが、無言でエレナに殴られる。 「う、おだてりゃ猿も木に……いてえ!」  続いてケイジも殴られる。 「はいはい、そこまでにして。着替えないと風邪引いちゃうよ?」  メルフィアが仲裁も兼ねて、着替えを提案する。 「だね。アー、すっきりした。後1週間は笑わなくていいよ、あたしゃ」 「むう」  ケイジもうなりながらも仕方なく、と言った感じで部屋に戻る。他の面々もそれになら う様に自分の部屋----共同が多いが----や、自分の家に戻っていく。  笑いながらメルフィアに押されて、自分の部屋に戻るエレナを見て、シールズは…… 「あの騎士とエレナの関係はいったいなんなんだ?」  シールズの疑問に答える者は誰もいなかった。 あとがき  どうも、作者のエレナです。どうだったでしょうか?思いつくままつらつらと書いたの で、私はかなり楽しめました。(爆)でも、構想も練らないで書くのってむずかしいので すねえ。  後、キャラが他人のキャラのため動かすのが難しいです。よって、一番目立つのがエレ ナになってしまったわけで……しかも性格違うわ、職業違うわで、全然違うキャラです。 ツッコミのノリだけはゲーム内と一緒ですが。(爆)書いてる内にシルさんがかなり個性 を発揮しまして、エレナ以外では一番目立ってます。こういうキャラって書きやすいので すよねえ、個人的に。  楽だったのは世界観……魔法名とか考えなくて済む!(爆)アクセサリーもちょっとだ けオリジナリティを加えると、便利(作者にとって(爆))アイテムになってくれます。  文章とかまだ拙くて、語彙も少ないので読みづらい所もあるかもしれませんが、少しで もこの物語を楽しんでいただけたなら、作者冥利につきます。  では、次は2話で……あるのだろうか?(待ちなさい) PS たぶん2話はラブコメです。(ぇー)ギルメン内でくっつくことはありません。ギル メンと私のオリジナルキャラと言った感じです。でも、メルさんとシルさんのカップリン グはおもしろそう。(待ちなさい)